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ある絵描きとの出会い

十年ほど前、雨飾山(あまかざりやま・長野・新潟県境)に行ったとき、小谷村(おたりむら)の雨飾キャンプ場にテント泊しました。広くて居心地のいいキャンプ場には立派な管理棟があり、登山の前後に訪ねた時に数点のスケッチ画が展示されているのを目にしました。それは山麓の山野草や周辺の自然を描いた小品でしたが、とても惹かれ、しかもこの絵の作者は自分と同じ学校の先輩ではないだろうか?と思いました。

 

管理棟の人に尋ねると、小谷村にアトリエを持つ東京在住の絵描きさんとのことで、そこに記されてあった住所を控えて、無事登山後、帰宅しました。

後日その住所に手紙を書き、やはり同窓の油絵学科の大先輩とわかりました。以来1年に一、二度くらい互いの展示会の知らせや、ふとした時に何気なく便りするお付き合いが始まりました。

 

初めてこのAさんの個展に吉祥寺の画廊を訪ねた時、手紙のやり取りのみで、互いに本人を全く知らずに会ったにもかかわらず、先着の接客を済ませたAさんは私を見るなり「あなた、中村さん?」と一言・・・絵描き同志の挨拶はこんなもんです。

自分の制作が現場での水彩画ではなく、もし油絵を描き続けていたなら、こんな絵を描きたい!と思わされる作品で、マチエールといい色といい、油ぎっていない画面処理といい、特に難しい白をこんな風に美しく使っている画面には見入ってしまうのでした。そして何よりも、足を悪くされても、もう小谷村のアトリエに通えなくなっても、とにかく、とにかくこうして大作も含め描き続け発表されているその制作態度に大きく心打たれ、今回も個展に伺い改めて感動し、力をもらえたのです。