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北の大地 閑話

ちょうど2月1日付東京新聞夕刊の文化欄に「橋をめぐる物語」(中野京子)という連載で『北海道 自然の厳しさ』という表題が目に留まりました。

内容は北海道北部内陸の山間、三毛別(さんげべつ)六線沢(現・三渓)で起きた日本獣害史上最大の惨事と言われる羆事件を取り扱った吉村 昭の『熊嵐(くまあらし)』についてでした。

 

普段からあまり小説は読まないのですが、その中で吉村 昭は別格でその文庫本は本棚に少々並んでいます。中でもこの『熊嵐』は印象的な(恐怖!)一冊で実際にあった開拓民を襲った羆のことは忘れられませんでした。

 

改めて新潮文庫に掲載されている倉本 聰の「あとがき」を読んでみれば「北海道の美しさと凄みはその自然のもつ残酷さに常に裏打ちされていると思う…」とあります。自分の都合のいい時、天候の良いタイミング、ほんの僅かな日数、観光地域を中心とした束の間の訪問・・・そうした北海道旅行しかしていない私には到底分からない‘凄み’や‘残酷さ’です。

 

それでも訪ねたからこそ感じられることもあるはずです。そして時にはこうして一冊の本が、旅する自分に想像を補ってなにがしかを考えさせてくれるものになったりします。実際、北海道を訪ねる時には常に羆(山の世界では「山オヤジ」と呼ぶ)の存在が頭から離れることはなく、同時にこの『熊嵐』が脳裏をかすめ続けるのです。

(写真は根室本線車窓から撮った漂う氷結した海の氷です。海の際の白い凸凹は海岸線の防波堤=テトラポット)