秩父の名峰 武甲山

武甲山(ぶこうさん)と言えば押しも押されぬ秩父の名峰です。が、まだ登ったことがありませんでした。何十年と山登りをしていても、そうした何故か登り残してしまっている山というのが幾つもあるものです。

 

そこで春にはまだ浅い今の時期、有名ドコロの名峰も今なら人も少なく静かだろうと、ついに初めて訪ねることになりました。

 

写真は山頂の「第一展望台」という一番高いところからの展望で、遠く白く見えるのは浅間山です。天気よく、新潟県境の山々まで見通せましたが、浅間山は別格、白い噴煙までよく見えました。

その昔、立派な山容だったであろう武甲山。明治期よりセメント原料として採掘が行われ、今では段々ひな壇に削られ山頂も30メートル以上低くなり北面は物凄い様子を呈しています。遠目からも真っ白な山肌は良質な石灰岩から成る山であることがわかります。

 

国道299号から道を分け、生川(うぶがわ)に向かって車を走らせます。ここが驚きの地帯、つまり石灰岩をセメントに製造・搬出する巨大プラント設備の工場内を通過するまさにその幹線道なのです。自家用車が通るのも憚れるようにダンプやミキサー車が行きかい粉塵の舞っている中進みますが、ようやく本来の山の静けさが戻ると武甲山御嶽神社の一の鳥居に到着します。

 

いつも丹沢前衛の西山を歩いていますが、この武甲山は西山同様、人工物建設用の原材料掘削の為に山自体が削られ小さく低くなっています。スケールの違いこそあれ、山が無くなる進行形は同じであり、その採掘により私たちの便利な生活が享受出来ている現実を考えると、自分自身も加害者であると自覚する以外にありません。

 

(写真は登山道途中にある巨木の大杉です。植林の最中にもこのような大杉は伐り倒すことはできなかったのでしょう、数本が今も枝を逞しく広げ生きています。)

当日、数組数人の登山者と出会いましたが、殆どは往路の表参道をそのまま下山していきました。山頂からの大展望を眺めた後、昨年登った大持山のスケッチをしてから南側のシラジクボに下る道を取りました。表参道は少々気が滅入るようなスギ・ヒノキの植林帯が続きましたが、こちら側は自然林が残り、葉の落ちた落葉松林越しには両神山もクッキリと見えました。

 

武甲山は石灰岩の塊です。そのため山から湧く水はミネラル豊富なまたとない良質な水となっています。丁目石十七番近くに水場があり、登山者はそこで喉を潤せます。ブナの湧き水とはまったく違う味わいでした。

こんな水を湧かす山の組成が悲しい運命の元になっているとは、なんともやり切れぬ思いになります。下山時の暖かな早春の陽ざしのひとときが、せめてもの武甲山のホッとする思い出となり、下山道をシラジクボの方に取って本当に良かったと思っています。