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A.サトウと武田久吉展

 日光中禅寺湖畔、観光地で有名な華厳の滝に隣接する「栃木県日光自然博物館」を訪ねました。今回はここで企画展「武田久吉(ひさよし)展」が開催されていて、しかも9日が最終日、どうにか間に合いました。

 

この日も関東地方は好天、猛暑でしたが、いろは坂を昇り中禅寺湖畔まで来るとさすがに涼しい風が吹き抜けます。まずは湖の南に控える半月山まで上部の駐車場から散策し、それから昨年新築整備されたばかりの「英国大使館別荘公園」を訪ねました。

 

ここは1800年半ば以降駐日公使として日本に滞在したイギリスの外交官、アーネスト・サトウの個人別荘があったところで、その後も英国大使館別荘として長年使用されていたものを復元したものだそうです。

アーネスト・サトウは日本各地を旅しましたが、長野県大町から富山市への北アルプス縦走など日本の山岳にも多くの足跡を残しました。日本人の武田 兼と結婚、次男が武田久吉です。

 

今回の日光では父親のA.サトウと息子の久吉の展示を共に見ることが出来るいい機会となりました。別荘では中禅寺湖が目前にひろがる一級の眺望と共に、当時の趣きそのままに家具や備品が室内に並び、壁には写真を中心とした資料が展示されています。二階にはとてもおしゃれな英国風喫茶があり、せっかくなのでちょっと贅沢なmade in England陶器でのティータイムを過ごしました。

 

午後から訪ねた本命の日光自然博物館はほぼ貸し切り状態でしたが、とても充実した施設です。企画展の展示はさほど点数は多くありませんでしたが、久吉が出会った人々との関わりのなかで、どのように山や自然、植物に親しんで行ったか、その植物学者としての軌跡がストーリー仕立てで展示されていました。

 

また常設の日光周辺山域の大きなジオラマ模型を使って、往年の久吉が通うように登った日光の山々を、年代別に色分けした毛糸を使い歩いた道なりに置いてあり、その健脚ぶり、精力的な探求がひと目でわかる工夫が施されていました。

ケース内の久吉が使った登山用具なども興味深かったですが、特に少年期に使ったメンコや双六などの玩具(紙製のもの、よく残っていると思いました)などは心が惹きつけられました。その前に別荘で見た古いライティング・デスクも、久吉がイギリス留学中に父親から贈ってもらったもので、帰国の際も持ち帰りその後もずっと使い続けたそうです。

 

植物学者、登山家、日本山岳会創始メンバーの一人、会長などをつとめた威厳ある武田久吉の印象から、ふと幼少期や青年期の情景が想い描ける心温まるひとこまでした。