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飯豊山を振り返って

この本はヤマケイ新書から2016年12月に出た「『山の不思議』発見!ー謎解き登山のススメ」(小泉武栄著)です。小泉先生の本は昔、偶然目に留めて読んだ「日本の山はなぜ美しい」(古今書院)がきっかけで、以来新しい本が出るとよく読んでいます。

 

と言うのも、山の絵を描くにあたって常に「どうしてあそこは植生がなく黒っぽいのだろう?」とか「なぜガラガラした地形なのに、こちら側は笹原なのだろう?」とか疑問だらけでいたのです。そこに出会ったのが小泉ワールド「山の自然学」の世界でした。まさに目からうろこ。元々自然科学が嫌いではなかったのでグイグイと引き込まれ、この「山の自然学」のおかげで描くにあたってもいろいろな事が理解でき、それ以上に山を歩く楽しみが深まるのが何よりでした。

 

つまり自然のなかでは「答え」を知ることより、まず「どうして?」という疑問を持つことの方が数倍も楽しいのです。必ずしも答えが分からなくとも、その「どうして」に自分なりの“推論?”(いい加減で適当なものであっても)を立てながら接することで何気なく見ているものもよく見つめますし、山で過ごす時間や山歩き自体が奥深くなるような気がするのです。

(ちなみに、この本の第1章に突然私の名前が登場していてビックリ。後日、先生からのお年賀状に「あなたのことを書いちゃいました」とありニンマリでした。)

 この本の第6章が「飯豊山1ー強風と多雪がもたらした偽高山帯の植生景観」と銘打っていて、まさに今回自分の歩いたコースを辿った解説となっているのです。事前に読んでは行ったのですが、やはり実際に歩いた後、帰宅してから読み直したことで納得。そうだった…そうだった…と思い返すことで理解も深まり、より飯豊に魅力を感じることになりました。

 

右の写真、私は雪崩によるスラブの山肌と考えましたが、本によると「表面が赤く変色していることで現在形成中の地形ではないことがわかり」「おそらく氷期の氷河が削ったものでしょう」「稜線に近い場所でも見事な擦痕(さっこん)があったので間違いないと思います」とのことです。こうして地球の歴史を目の前で見ることができる山々、その謎解きに魅了されるのは私ばかりではないと思います。