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チバニアンを訪ねる

自然保護団体「丹沢ブナ党」の企画でマイクロバス貸切、そして地理学(自然学)の大御所、元東京学芸大教授の小泉武栄先生を講師に迎えての、豪華な『チバニアン巡検』に参加しました。

 

好天に恵まれちょっと暑いくらいの陽気でしたが、25人定員のバス満席で一路、千葉県市原市の田淵地区に向かいます。ひところ話題になったチバニアン。地質学的に貴重で珍しい「地磁気逆転地層」が露呈しているのがこの千葉の養老川沿いで見つかり、地質学年表(International Chronostratigraphic Chart)の77万年頃の時代に「チバニアン」と云う名称が付けられるのでは!?と期待されている場所です。

 

とは云うものの実は当日、小泉先生のレクチャーを聞いて初めて知ることばかり。ジオパークもそうですが、こうした地質学的な場所を訪ねるのは専門的に解説してくださる方が同行でないと、素人には何がどうなっているのかサッパリです。今回は最高の「案内役」、しかも地質から植物、自然景観などなど全部をひっくるめて考え謎解きのように「どうして?」を説明してくださる小泉先生のお話を終日伺いながらの巡検です。もう楽しいの一言!(写真は田淵地磁気逆転地層の前で説明をされている小泉先生と聞き入る参加者たち)

 

道中、養老川が平坦な千葉の地形の上にあり、且つ特有な砂岩と泥岩が交互に成す地層によって、猛烈な蛇行を繰り返している、その道沿いにバスは進みました。この特有なU字型に蛇行する川を、江戸時代より人々は大変な知恵と労力で堰き止め直線的に水を引き込む経路を作る工夫をしながら、河岸段丘でも稲作が上手くできるように努力していたとの説明がありました。これは「川廻し」と呼ばれる手法で、先生は「一種の文化財でもある」と仰っていました。残念ながらそれらの内、今では休耕田になってしまっている箇所が多いのですが、現在の上総の景観は、こうした13万年前ほどの侵食による数段にわたる河岸段丘の地形を上手に利用した上になりたった暮らしと云うことになります。

(写真は道路脇にあった養老渓谷の古い案内図、イラストマップですが蛇行している養老川の様子がよく分かります)

最後に立ち寄ったのは久留里(くるり)の町です。傾斜の殆どない平らに流れる水は、地層の関係で川となっているものですが、地中の泥岩の上を流れている水系が地上に自噴しているのが、この久留里の町。たまたまそうした地層だった事が久留里城をはじめこの町が豊かに栄えている所以だったのです。

(写真は湧き出ている水を飲んでいるところ、とても美味しかったです 「平成の水百選」とありました)

 

また地中の水系を竹ひごで掘り当てて井戸として利用する有名な「上総掘り」も千葉のこの当たりの特殊な地層故に編み出された大きな知恵・技術の遺産です。この「上総掘り」は発展途上国で、大掛かりな機械(高額だしメンテナンスが必要、壊れたらお終い)を必要とせず、簡易な道具と人的な労力で井戸が掘れることで高い評価を得ています。

 

当日の目的はチバニアン訪問でしたが、そうした学術的な事柄と同時に小泉先生から道すがら様々伺ったことで(地質にまつわる)自然と関わる人々の生活の知恵と努力の大きさを知ることができ、行き帰りでは同じ上総の景観も異なって見えるようでした。「小泉ワールド」にドップリと浸かり魅了された一日でした。