冬枯れから春への移行

個展前、しばらく行けなくなる山に行って絵を描きたいと、今まであまり縁のなかった秩父の山に出かけてきました。圏央道のおかげです。

 

地理的には遠くない埼玉も、下道で行くとなると気の遠くなるような道中で、電車で行くとしても、山を歩いているより車中の方が長い時間を過ごすような遠さでした。

 

写真の妻坂峠はかつて生活面でも主要な通行の要所であったことは容易に察せられますが、こうした昔日の人々が使った峠道はおのずと足が運ばれるように出来ているため、好ましい山歩きとなります。そして、その急登もいつの間にか終えた頃には全くの別世界が目前に拡がり新しい地が開ける明るい気分が心地よい疲労感と共にしっとりと味わえます。写真のお地蔵様は、そうした長い年月の間、多くの人々を迎えては見送ったのでしょうが、そのお顔も掘られた文字も判別出来なくなっています。

妻坂峠からの登りはかなりな急登で、直登コースをとった登山道はオーバーユースと雨水の通り道で深くえぐられ、土嚢で補修はしてありますがかなり荒れています。割りと広い尾根なので、峠道のようにくの字を繰り返すジグザグの登路をゆったりと作れば、そこまで荒れなかったのでは?と残念です。

 

林床は写真のように落葉が敷き詰められ掃除機をかけたようなまことに‘きれい’な状態です。これはシカの食圧のせいです。注意して見ると、そこかしこにカタクリやニリンソウの葉がのぞいていますが、それら春の花々もきっと芽吹いたそばから食べられてしまうでしょう。リョウブの木には「皮はぎ」の痕が多く見られました。

大学時代の友人が、かつて高校生の頃訪ねた際「妻坂峠からの登路は藪っぽくて大変だった」とメールをくれましたが、そんな藪など面影もない状態です。きっと再訪したら、同じ山とは思えぬ変貌に驚くことでしょう。